ボブディランの入門と名盤のススメ 【映画『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』公開記念】

アルバムレビュー

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今回は、タイムリー的にボブ・ディランの入門編を書こうと思います。と言うのも先日、ボブディランの伝記映画、『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』が公開されました。さっそく公開直後に私も見に行かせていただき、非常に感動いたしました。ボブディランを知らない人も、ボブディランのファンもしっかりと楽しめる内容となっています。何より、映画で描かれる60年代のアメリカの雰囲気が最高なんです。フォークの枠組みを中心として、ボブディランの反体制的で政治的なアティチュードが公民権運動に、そして音楽界にどのような影響を与えたか、かなり客観的に、そして忠実に描かれているといった印象です。個人的には物凄く面白い作品だと思いました。では、そろそろ本編へ

【ボブディランとは】

まずは、ボブディランのプロフィールについて軽く紹介したいと思います。
ボブディラン(Bob Dylan)は、アメリカ出身のシンガーソングライターであり、フォークシンガーでありロッカーです。出生名は、ロバート・アレン・ジマーマンで、元はユダヤ系アメリカ人。映画の中でも、本名で郵便が届くシーンがあり、ボブディランが過去と決別をしたような描写がありました。

Like a Rolling Stone」や「Mr. Tambourine Man」、「Tangled Up In Blue」や「Blowin’ In the Wind」など数々の名曲を残し、ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上偉大な100組のアーティストにおいて第2位(1位はビートルズ)、ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のソングライターにおいて第1位(2位はポール・マッカートニー、3位はジョン・レノン)を獲得しています。後述しますが、ビートルズやメンバーのジョン、ポールとの交流も深く、後にロックの歴史において重要な貢献を果たします。

特筆すべきは、名曲「Blowin’ In the Wind」。世界一の作詞家としても名を馳せるボブディランですが、当楽曲においては「ノーベル文学賞」を、ミュージシャンとして初めて受賞しています(授賞式には欠席、それも彼らしい)。ちなみに、Like a Rolling Stoneは、2004年のローリング・ストーン誌の選ぶ偉大な500曲において第1位を獲得しています

【名アルバム紹介】

次は、ボブディランのアルバムについて紹介にあたりたいと思います。非常に多くの名盤に溢れていて、そのどれもが高い評価を受けています。

① 『The Freewheelin’ Bob Dylan』 (1963)

私が世界一好きなアルバムをいくつか挙げるとすれば、その一つにこれは必ず入るというほど、大好きな作品。ちなみに私の選ぶ最も良いジャケット写真ランキングでも第1位を獲得しています(どうでもいい)。
全曲アコースティックギターとハーモニカ、ボーカルのみのシンプルなフォーク編成で構成されている当アルバムですが、多数の名曲に溢れているため本当に飽きないです。文学作品としても評価されるべき。

Blowin’ In the Wind」(風に吹かれて)をはじめとして、「Girl from the North Country」(北国の彼女)や「Masters of War」(戦争の親玉)、「A Hard Rain’s A-Gonna Fall」(激しい雨が降る)や「Don’t Think Twice, it’s All Right」(くよくよするなよ)など、ボブディランのキャリアを通しても長く語られる代表曲が多く収録されています。前作のファーストアルバムはカバーのみの収録でしたが、当アルバムはほとんどがオリジナル曲です。ボブディランがフォークシンガーソングライターとして名を馳せるきっかけとなった名盤ですね。

② 『Bringing It All Back Home』 (1965)

このアルバムから3作は、フォークの歴史のみならずロックや音楽界の歴史を語る上で外せない名アルバムが続きます。次作からロックに転向していく中で重要な足掛かりとなった本作は、ブルースマンとしての楽曲「Subterranean Homesick Blues」や長尺の名曲「It’s Alright, Ma (I’m Only Bleeding)」などが収録されている名盤。中でも、8曲目の「Mr. Tambourine Man」は、The Birdsのカバーの大ヒットをはじめ音楽史に残る名曲として語り継がれています。と同時に、これを機会の一つとして、フォークロックが幕開けることとなり、同年の末頃にはビートルズがフォークロックの大名盤「Rubber Soul」をリリースすることになります。Rubber Soulはよくマリフ◯ナのアルバムと言われますね。そのマリフ◯ナをビートルズに教えたのが、彼ボブディランだと言われています(詳しくは後述)。

③ 『Highway 61 Revisited』 (1965)

前作『Bringing It All Back Home』から大きな間隔をあけずにリリースされたのが、歴史的大名盤『Highway 61 Revisited』(追憶のハイウェイ61)。2012年に発表されたローリング・ストーン誌の選ぶ史上最も偉大なアルバム500において、4位を獲得。世界一の楽曲とも釘打たれた名曲、「Like a Rolling Stone」をはじめ、表題曲「Highway 61 Revisited」など多くの名曲を収録。

本アルバムをもって、ボブディランはロックへ転向することになりますね。映画にも描かれましたが、ロックに転向するにあたって、このような逸話があります。フォークの祭典に出演きたボブディランが、自身の姿勢を貫きエレキギターを持ってステージに立つと、保守的なフォークファンの観客たちから一斉に大ブーイングを受けてしまう。罵倒を受け続けた彼がステージを降り、アコースティックギターを持って再度ステージに上がると、あたたかい声援で歓迎される。と言ったものでした。(ネタバレになりますが)作中のクライマックスシーンとして描かれ、ラストシーンでバイクを走らせる描写には、フォークからロックへの転向(フォークを置き去りにしロックの時代への突入)を暗示しているような終わり方を感じてしまいましたね。

④ 『Blonde On Blonde』 (1966)

1965~66年の3作、ボブディランの全盛期を表す名盤のラストが、『Blonde On Blonde』 です。名曲「I Want You」や「Just Like a Woman」など、アルバムとしての完成度はキャリアを通しても随一のもののように感じます。以前までのフォークの雰囲気も残しつつ、バンドのアンサンブルとしてそれを表現するフォークロックとして、後に勃発する大量のアメリカのフォークロックバンドたちに大きな影響を与えます。2020年のローリング・ストーン誌の選ぶ歴代最高のアルバム500においても、第38位を獲得。

⑤ 『Blood On the Tracks』 (1975)

1970年代に入ると、シンガーソングライター(SSW)の時代に突入します。フォークロックが、サイケデリックロックの時代を経てハードな方向やプログレッシブな方向へと分離していく中で、保守的なフォークシンガーの層がもう一つの水脈として、シンガーソングライターと呼ばれるジャンルを大成します。

『Blonde On Blonde』からかなり時代は飛びますが、これを最高傑作とする声も多いです(2020年のローリング・ストーン誌の選ぶ歴代最高のアルバム500においても第9位を獲得)。邦題は『血の轍』。アコースティックなサウンドを中心として、バンドアンサンブルがかなりポップな曲調を仕上げていながら、どこか冷笑的なムードの漂う作品。代表曲「Tangled Up In Blue」(ブルーにこんがらがって)は、私も強く衝撃を受けた大名曲(歌詞が凄すぎる)。全米チャート1位を記録するなど、商業的にも大成功しています。他にも、「Idiot Wind」や「Shelter from the Storm」など、多くの名曲が収録。私も、『The Freewheelin’ Bob Dylan』の次に好きな作品です。

【ロック界への影響】

次に、ロック界との繋がり、そしてロック界への影響について論じていきたいと思います。前述の通り、ボブディラン本人がアルバム『Highway 61 Revisited』を皮切りにロックに転向していますが、その前後にあらゆる交流や影響があり、ロックへの転向に至った経緯や、ロックの歴史を変えた瞬間があります。

① ビートルズとの交流

一つ目は、ビートルズメンバーとの交流です。主にジョン・レノン。ジョンは兼ねてよりボブディランに高いリスペクトがあり、アルバム『Beatles For Sale』をはじめ、フォークを大々的に持ち込むきっかけとなった人物でもありました。続く『Help!』、『Rubber Soul』にてフォークロックが完成。サイケの時代に入りますね。
ジョンがボブディランに憧れ続ける中、1964年に彼らは初対面。いや、初融合と言うべきでしょうか。この出会いが、60年代のロックの歴史を幾分にも早めます。

まず、ボブディランはビートルズにマリフ◯ナを教えたと言われています。先ほど軽く触れましたが、『Rubber Soul』はマリフ◯ナのアルバムとしばしば形容されます。65年前後は、両者ともにソレにどっぷりと浸かってしまっていたようですから、音楽にもその影響が顕著に反映されてしまいます。ビートルズの楽曲が、この時期を境にかなりスピリチュアルなテーマになっていくのは、このようにさまざまなドラ◯グにのめり込んでいったためです。当時のアイドル的な存在から、アーティスト的な存在へ。この路線変更が、ロックの歴史を変えたことは言うまでもないですね。ボブディランは、少なからずその歴史を早めました。

次に、ボブディランはビートルズに歌詞の文学性を導入させました。当時のビートルズの楽曲は、ほぼ全てがラブソングでした。そこへ、ボブディランの歌詞の文学性が導入され、ビートルズの歌詞のテーマがより大きいもの(愛や平和など)へと変化していきます。ジョンレノンは歌詞がいいとよく言われますが、その直接的な影響がボブディランだったんですね。これらの2つの影響は、『Rubber Soul』を経て『Revolver』で、「サイケデリック・ロック」として大きなムーブメントを作り出すことになります。

② ザ・バンドの輩出

エリクトリック期のボブディランのバックバンドを務めていたザ・ホークスが、1968年に改名しメジャーデビューしました。それが、かの有名な「ザ・バンド」です。60~70年台のアメリカンロックの最重要バンドの一つとなる彼らですが、ボブディランからの提供曲や、ボブディランとの共作アルバムなど、さまざまな点で交流を持ち続けました。
ボブディランが直接的にザ・バンドを輩出したわけではありませんが、少なくとも彼らの出会いがロックの歴史においてかなり重要なものであったことは間違いないです。ザバンドは私も大好きなバンド。最初3枚がやはりイイですよね。

ザ・バンドをApple Musicで
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今回特筆すべきところとしては、共作アルバム『The Basement Tapes』(地下室)。『血の轍』と同年のアルバムですが、こちらは特にカントリー志向のものが多く、古き良きアメリカのロックを表す最高の名盤だと思います。

ボブ・ディラン & ザ・バンドの「The Basement Tapes」をApple Musicで
アルバム・1975年・24曲

③ ジミ・ヘンドリックスやザ・バーズのカバー

ボブディランは、自身の楽曲のカバーがヒットすることが多いですね。また、逆輸入的にそのカバーのヒットを受けてロックへの転向に関心を持つようになったりもしたようです。
有名なところでは、「All Along the Watchtower」(見張塔からずっと)。ジミヘンがロックアレンジでカバーして話題になります。また、前述した「Mr. Tambourine Man」。後にザバーズがカバーし、全米1位の大ヒットを記録しました。ロック界への影響があまりにもデカすぎますね。

以上、ボブディランの入門編でした。映画、まだ公開中なのでぜひ皆さん足を運んでくださいな(後悔はしませんよ)。本日もご愛読ありがとうございました!それではまた~(╹◡╹)

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